「AIが便利なのはわかるけれど、結局なにから始めればよいのかわからない」。経営者や管理職の方から、いちばん多くいただく声です。ニュースでは毎週のように新しいAIの話題が流れ、追いかけるだけで疲れてしまいます。
ところが、実際にAIでつまずいている方のお話を聞くと、原因はAIの難しさではないことがほとんどです。頼む側が「何をしてほしいか」を整理できていない、最初から完ぺきを求めている、1つのAIに何でも頼んでいる。この3つで、たいていの説明がつきます。
ここでは、毎週の無料セミナーの入門回でお話ししている内容をもとに、AIを使い始める前に知っておきたい全体像と、最初の一歩の踏み出し方をまとめます。
AIにできること、人がやること
まず、AIの役割をシンプルに整理しておきます。
| AIが得意なこと | 人がやること |
|---|---|
| 文章や資料のたたき台を作る | 何を作るか、誰に渡すかを決める |
| 長い文章や資料を要約する | 中身が正しいかを確かめる |
| 言い回しを整える、読みやすく直す | 社外に出してよいかを判断する |
| アイデアをたくさん出す | どれを採用するかを選ぶ |
AIは「下書きを速く出す係」と考えると、使いどころが見えてきます。最終的に何を出すか、正しいかどうかを決めるのは、これまでどおり人の仕事です。
つまずきの正体は3つ
1. 何をしたいか、自分でもはっきりしていない
「いい感じの資料を作って」と頼むと、たいてい微妙なものが返ってきます。「いい感じ」は人によって違うからです。AIは頼まれた言葉だけを手がかりに作るので、頼み方があいまいだと、結果もあいまいになります。
2. 難しく考えすぎている
最初から完成品を出してもらおうとすると、指示を書く段階で手が止まります。小さく頼んで、出てきたものを手直しするくらいの気持ちで十分です。300字のメール、10行のメモ、3枚のスライドといった小さな単位から始めます。
3. 1つのAIにすべてを頼んでいる
ChatGPT、Claude、Gemini など、AIにはそれぞれ得意なことがあります。セミナーでは、たとえば次のような使い分けをご紹介しています(記事公開時点の所感です)。
- ChatGPT:最初の骨組みを速く作る
- Claude:読みやすく、やさしい文章に整える
- Gemini:図やPDFから要点を拾う
すべてを使いこなす必要はありません。「AIは1種類ではない」と知っておくだけで、うまくいかないときの打ち手が増えます。
明日から使える「三行メモ」
頼み方のズレをなくすために、セミナーでおすすめしているのが「三行メモ」です。AIに頼む前に、次の3行だけ書きます。
- だれに:読む人・聞く人(例:お客様の購買担当、会議に出られなかった上司)
- なにをつくる:形と長さ(例:価格の説明メールを300字で、件名を3案)
- 相手の次の一歩:読んだ人にしてほしいこと(例:2日以内に面談の可否を返事してもらう)
そして最後に、**「質問があれば教えてください」**と1行添えます。この一言があると、AIは足りない情報を勝手に推測せず、先に質問してくれるようになります。その分、やり直しが減ります。
たとえば、会議の内容を上司に伝えるなら、次のように頼めます。
- だれに:会議に来られなかった上司
- なにをつくる:決定事項・担当・期限のメモを10行で
- 相手の次の一歩:当日中に内容を確認して承認してもらう
- 質問があれば教えてください。足りない点があれば、先に2〜3問きいてから書いてください。
三行メモは、AIのためだけのものではありません。「誰に、何を、どうしてほしいか」を書き出すことで、頼む側の頭の中も整理されます。部下に仕事を頼むときと同じです。
使い始めるときの注意
便利さに慣れる前に、2つだけ決めておいてください。
- 入れてはいけない情報を決める:お客様の個人情報や、取引先との契約の中身などは、会社のルールが決まるまで入力しないようにします。
- 出てきたものは人が確かめる:AIはもっともらしい間違いを書くことがあります。社外に出す文章や数字は、必ず人の目で確かめてから使います。
まとめ
- AIは「下書きを速く出す係」。決めるのと確かめるのは人
- つまずきの多くは、頼み方があいまい・完ぺきを求めすぎ・1つのAIに頼りすぎ、のどれか
- 「だれに・なにをつくる・相手の次の一歩」の三行メモと、「質問があれば教えてください」の1行で、ズレはぐっと小さくなる
まずは明日、いつもの仕事を1つ選んで、三行メモで頼んでみてください。それだけで、AIへの印象はかなり変わるはずです。
社内でまとめて始めたい場合は、社内でAI研修を始める前に決めておきたい3つのこともあわせてご覧ください。毎週の無料セミナーでも、入門向けの内容を実演しながらご紹介しています。
文:嶺本高志(デジタルレイバーズ代表)